ワープ・ドライブ(Warp Drive)とは、光速を超える速度での宇宙航行を可能にするFTL (Faster Than Light) 技術である。
これは、亜空間の場(亜空間フィールド)によって形成される亜空間バブルで宇宙艦を包み込み、周囲の時空連続体を歪めて艦を推進させるものである。
ワープの速度を示すための尺度は、ワープ・ファクター(ワープ係数)と呼ばれ、この数字が10に近いほど速い。
ワープ・ドライブは、いくつか存在するFTL技術のうちで、最も基本的なものである。またワープ中は、船体周囲の宇宙塵や星が針状となって流れていくように見える。
なお、この項ではワープ航行そのものに関する技術の概略と、その開発史を述べる。エンジンの構造に関しては、ワープ・エンジンの項を参照。
理論概要[]
ワープ・ドライブ(ワープ航法、亜空間航法)とは、端的に説明すると、「亜空間フィールドの泡で船体を包み込み、光速の壁を突破する」技術である。ここで言う「亜空間」とは電磁場のようなもので、異世界といったものではない。(詳細は亜空間の項目を参照)
通常の宇宙空間における加速では、相対性理論の制約から、船体の質量は光速に近づくほどに無限に向かって増え続け、さらに加えて時間の遅れ「ウラシマ効果」が発生してしまう。
ウラシマ効果の発生原因は、光速度は観測者がどんな速度で運動していても一定だからである。
実際、宇宙艦のインパルス・エンジン(通常エンジン)の最大速度が「光速の25%」に設定してあるのは、この速度がウラシマ効果の影響を極力受けない限界速度だからである。
しかしながら、亜空間の場の内部においては、物質の質量は逆に小さくなる。この特殊な性質を持つ亜空間の場を人工的に発生させ、泡状に船体を包み込んで光速を突破する方法が、ワープ・ドライブである。船体はこのとき、亜空間フィールド内部の空間に対して静止しているため、ウラシマ効果は発生しない。
船体を包み込む亜空間フィールド・バブル(ワープ・バブルまたはワープ・フィールド)は最大で第9次にまで重複して張ることができ、バブルの枚数に応じて、船体の速度は枚数の10/3乗x光速ずつ増加していく。
ワープ・バブルが1枚のときの速度をワープ1と呼び、これは光速と同じ速度である。同様にワープ・バブルが5枚の場合はワープ5(光速x214)、8枚のときはワープ8(光速x1024)と呼ぶ。すなわちワープ・ファクター(ワープ係数)とは、ワープ・バブルの枚数と速度を同時に示す単位である。ワープ・ファクターを第○ワープという呼称で示す場合もある。
以下にワープ係数、速度(x光速)、備考の順で簡単に示す。
1 1 光速と同じ 2 10 3 39 4 102 5 214 ヘカラス条約制限速度[1] 6 392 7 656 8 1024 9 1516 9.2 1649 9.6 1909 USSエンタープライズD最大速度 9.9 3053 9.975 5754 USSヴォイジャー最大速度 9.99 7912 ボーグ・キューブ最大速度(通常ワープ) 9.9997 198696 亜空間通信速度 9.9999 199516 亜空間通信速度(ブースターリレー使用時) 10 ∞ 到達不可能
ワープ係数は小数点があっても問題はない。しかしながら小数点以下の数字が大きくなればなるほどエンジン効率は悪くなる。
たとえばワープ1.9で航行するよりかは、ワープ2にシフトアップしたほうがエンジン負担が少ない。実際の運用においても、24世紀の宇宙艦の艦長は極力、整数のワープ係数で航行命令を出す。[2]
しかし、22~23世紀のワープ係数は、単純に係数の3乗ずつ速度が増していくという、24世紀の基準とはまったく異なる体系であるため、ワープ4.96→4.98→5といったシフトアップが日常的に行われる。[3]
以下に旧体系のワープ係数、速度(x光速)、備考の順で簡単に示す。
1 1 光速と同じ 1.4 2.7 22世紀地球輸送船最大速度 2 8 2.5 15.6 NXベータ到達速度 3 27 NXデルタ到達速度 4 64 4.5 91.1 5 125 エンタープライズNX-01最大速度 5.2 140.6 エンタープライズNX-01最大到達速度 6 216 7 343 22世紀ヴァルカン船最大速度 8 512 9 729 USSエンタープライズ(NCC-1701)最大速度 9.4 830.6 USSエクセルシオ最大速度 10 1000 11 1331 12 1728 13 2197 14 2744 14.1 2803.2 USSエンタープライズ(NCC-1701)最大到達速度
23世紀、USSエンタープライズ(NCC-1701)が一瞬到達したワープ14.1の速度は24世紀のワープ・ファクターに換算するとおよそワープ9.7である。
宇宙艦隊のワープ機関[]
24世紀において、宇宙艦隊の使用するワープ・エンジンは、燃料として重水素と反重水素を用いている。重水素と反重水素はワープ・コア内で混合されて恒星に匹敵するほどの消滅エネルギーを発生させ、ワープに必要な高出力のワープ・プラズマを生成する。
ワープ・コア内部には、エネルギー収束レンズのダイリチウム結晶が設置されている。この結晶は、高周波の電磁フィールド内では反物質との反応を起こさないという、特殊な物質のひとつである。このダイリチウム結晶が、ワープ・コアで生成されたワープ・プラズマの密度をより高め、混沌としたプラズマをハイワープに必要な高エネルギーなワープ・プラズマへと精製する。このダイリチウム結晶の技術がなかった当時は、宇宙艦隊はワープ5(光速の214倍)の速度を超える船を実現することはできなかった。
ワープ・コアで生成された高エネルギーなプラズマは、ワーププラズマ・コンジット(ワープ・コア背面にある太いパイプ)に通されて、ワープ・ナセル(通常、船体から離れて配置されている2対の翼)へと運ばれる。ナセル内には多くのワープ・コイルが並んでおり、コイル内部にあるプラズマ・インジェクターへと注ぎ込まれる。このコイルは、ヴァーテリウム・コルテナイドと呼ばれる人工物質で出来ており、強力な電磁プラズマと、ヴァーテリウム・コルテナイド製コイルの電磁的相互反応により、ワープ・フィールドが発生する。
他の文明では、例えばロミュランが人工量子特異点(人工ブラックホール)を使用しているように、異なる動力源が用いられることがあるが、単にエンジンが若干異なるだけの話であり、基本的に同じ技術によってワープしている。
ワープ・ドライブの意義[]
惑星連邦において、ワープ・ドライブの開発は、文明の発達度を示す一つの指標とされている。具体的に言えば宇宙艦隊の一般命令第一条(艦隊の誓い)において、ワープ飛行が未成功の種族に対し、惑星連邦は一切の公式接触や干渉を禁じている。
逆にワープ・ドライブ開発に成功した種族は「恒星間社会に参加する準備ができた」とみなされ、宇宙艦隊の外交官(連邦宇宙艦の艦長など)がファースト・コンタクトを行う。そこでその文明の代表者に、惑星連邦への加盟を薦めるのである。拒否された場合、宇宙艦隊はその星の文化を尊重し、静かに立ち去る。なお、連邦加盟には数年かける場合が通常のようである。(スタートレック:叛乱)
また画期的な移動手段として、ワープ・ドライブその他の超光速推進技術は、文明同士の恒星間の行き来や、広大な恒星間宇宙の探索を可能とする要となるものであり、この技術無しには、これらの距離を現実的な時間内で移動することは不可能である。
例えば、地球に足を踏み入れた最初の異星人であるヴァルカン人の母星は地球から約16光年の距離にある。2270年におけるインパルス・ドライブでの最大速度は光速の0.8倍であったが、この速度で地球からヴァルカン星まで行こうとすると、およそ20年を要する。ワープ・ドライブを使用すれば、この時間は4日にまで短縮される。(劇場版スタートレック)
銀河系内のそれぞれの文明において、ワープ・ドライブの開発に要した期間やその時期は様々であり、ヴァルカン(広義にはロミュランも含む)では、地球歴で3世紀頃には開発されていた。が、内戦によりその技術は失われ、再度確立するまでには数世紀を要した。
2151年に、地球の宇宙艦の速度はワープ5にまで達した。一方、同時期にクリンゴン人が有していた宇宙艦の最大速度はワープ6
であった。地球におけるワープ・ドライブの研究開始はアルファ宇宙域内の多種族に比べ決して早くはないが、地球人類のワープ技術の進歩は他種族のそれに比して非常に急速であり、大規模な宇宙探査の実現、ひいては惑星連邦の設立に繋がることになった。
開発史[]
21世紀[]
地球では、第三次世界大戦の後、ゼフラム・コクレーンにより最初のワープ・ドライブの開発が行われた。彼と彼の開発チームは核融合炉で発生させたプラズマを亜空間歪曲生成コイル(Subspace distortion generator coil)に注入することにより、場の内部の質量が減少する特殊なフィールド・亜空間が発生することを発見、同技術を応用して無人実験機で超光速飛行を成功させた。
以降、コクレーンは戦争の余波による混乱や、近代的な素材の不足を乗り越え、核ミサイル(タイタンV型ミサイル)を、ワープ速度での航行が可能な宇宙船へと改造、有人ワープ飛行実験に乗り出す。フェニックスと名付けられたその宇宙船が初飛行に成功したのは、2063年4月5日のことであった。この模様がヴァルカン人の探検船の注意を引き、ファースト・コンタクトと呼ばれる出来事へと繋ることとなった。(スタートレック:ファースト・コンタクト)
コクレーンの開発したワープ・ドライブは、核分裂反応を動力源とし、燃料にはミサイルの弾頭から取った物質を使用していた。その後、信頼性のある物質/反物質反応炉の開発により、ワープ・ドライブの可能性は更に広がることとなった。
22世紀[]
しかしその後80年間、ワープ技術の開発は遅々として進まなかった。これは、ヴァルカン人の地球に対する干渉が主な要因であり、2140年代に至るまで、ワープ5研究所のヘンリー・アーチャーによって開発されたワープ・エンジンがワープ2(光速の8倍)を超えることは無かった。このエンジンは2番目のNX型試作機に搭載され、A・G・ロビンソンとジョナサン・アーチャーにより、ワープ2の壁を打ち破り、ワープ2.5(光速の15.6倍)での飛行に成功した。
2151年、ワープ5での航行が可能とされるワープ・ドライブ・システムが開発され、人類最初のワープ5船であるNX級宇宙船・エンタープライズ(NX-01)に搭載された。しかし最初はそのポテンシャルを最大限に発揮することができず、ワープ4.7(光速の103.8倍)までの速度しか出せなかったが、その後、2152年2月9日に遂にワープ5(光速の125倍)を達成し、最終的にはワープ5.2(光速の140.6倍)での航行を成功させた。
2161年、ヴァルカン、アンドリアン、テラライトと惑星連邦が設立されたことで技術の共有が図られ、宇宙艦隊はワープ7(光速の343倍)を達成した。以後の新造艦にこの新型のエンジンが搭載されることになった。
23世紀[]
ワープ・ドライブの開発、改良は順調に進み、2240年代における宇宙艦隊のコンスティチューション級宇宙艦は巡航速度ワープ6(光速の216倍)、緊急時速度ワープ8(光速の512倍)、適切な状況下においてはワープ9(光速の729倍)での航行が可能であった。
また2236から2254年の間に、いわゆる「タイム・バリア」と呼ばれる障害の克服という、ワープ技術上の大きな進歩が見られ、コンスティチューション級艦はその恩恵を受けることが出来た。
更に大きなワープ・ファクターが、異星人の介入や、機器の暴走といった原因により達せられることもあった。2268年、USSエンタープライズ(NCC-1701)はケルバ人により、ワープ11(光速の1331倍)の航行速度を維持できるよう改良された。また、その後、ロジラという異星人女性の破壊工作により、エンタープライズはワープ14.1(光速の2803.2倍)の速度を出したが、それも彼女が消滅するまでの間のことであった。
23世中後期には、ワープ・エンジンの大規模な再設計が行われ、コクレーン時代からの円筒状のワープナセルは、徐々に細長い直方体形状のものへと換装されていった。この新技術により、巡航速度ワープ8(光速の512倍)が可能となった。
2280年代半ばには、理論的には従来のワープ・ドライブよりも速いスピードを高効率で実現するトランスワープの実験がUSSエクセルシオで行われたが、これは結局失敗に終わり、3年で計画は打ち切られた。
エクセルシオ自体は、エンジンを従来型の物に換装、USSエクセルシオ(NCC-2000)として就役し、ヒカル・スールー艦長の指揮で功績を挙げた。
24世紀[]
24世紀に入ってから、ワープ・ファクターの基準に変更が加えられた。それまでは、単純にワープ・ファクターの3乗=光速に対する倍数であったのが、新基準ではワープ・フィールドの次数をワープ・ファクターとし、ワープ9以降はパワー消費とその等価速度に関連して指数的に増大していく、より複雑な公式に置き換えられた。ワープ1は以前と同様に光速度であるが、ワープ10は理論的に不可能な無限速と定義され、宇宙のどの地点にも移動時間無しで到達できる速度と定められている。ワープ10に達した例にUSSヴォイジャーのシャトルの実験があるが、異常な結果となった。(VOY:限界速度ワープ10)
ギャラクシー級宇宙艦が設計された2360年代には、ワープ9.6(光速の1909倍/旧ファクターで約ワープ12.4)を12時間維持することが可能であったが、ワープ9.2(光速の1649倍)が一応の「非常線」とされた。
2370年、ヘカラス人科学者であるセロヴァは、ワープ・エンジンの使用が時空の構造にダメージを与えることを発見。連邦評議会は、緊急の医療処置が必要な場合など非常時を除いて、全ての宇宙艦に一時的にワープ5の速度制限を課した。
その後この問題への解決策が見つかり(ワープ・フィールドの形状調節)、宇宙艦隊の宇宙艦は再び最大ワープ速度での航行が可能となった。
イントレピッド級宇宙艦においては、ワープ・ナセルのパイロンの角度がミクロン単位で変更可能な可変静翼ワープ・エンジン・ナセルが搭載され、常に最適で鋭い形状のワープ・フィールドを張ることで問題を回避した。またその後、ワープ・ナセルを可変型としなくてもよい新設計のすらりと長いワープ・ナセルが開発され、ソヴェリン級やプロメテウス級などの宇宙艦に搭載された。
なお24世紀イントレピッド級宇宙艦の巡航速度はワープ8(光速の1024倍)、最大速度はワープ9.975(光速の5754倍)である。22世紀の最初期宇宙艦隊のNX級宇宙艦の最大速度・旧ワープ5(光速の125倍)に比べると、この200年間で格段の進歩を遂げていると言える。
以後の未来[]
並行時間軸との遭遇や、時空の異常といったものが、宇宙艦隊の科学者たちにワープ・ドライブの将来の可能性を示すことになった。2395年、ジャン=リュック・ピカードの見た可能性の未来の中では、ワープ・ファクターは再度変更されており、少なくともワープ13を示すことが出来るようになっていた。(TNG:永遠への旅)
ワープ・ドライブの進化は以後も続いていくものと思われるが、24世紀現在の宇宙艦隊のワープ技術は最高位まで達しており、技術的に飽和している。これ以上の劇的な技術革新は望めないため、以後は新理論からなるトランスワープ技術の研究が期待されている。
関連項目[]
付録[]
注釈[]
- ↑ ヘカラス・ルートの亜空間断層(TNG:危険なワープ・エネルギー)
- ↑ この性質から、例えば敵艦がワープ8.7といった不自然な係数で一定速度を保つ場合、それがその船の最大速度であると推測することができる。
- ↑ ワープ・フィールドの次数を「ファクター(因数、係数)」とする24世紀のワープ・ファクターに対し、単純に係数の3乗ずつ速度が増していくというこの旧ワープ・ファクターが、何を根拠にしている「ファクター」なのかは、残念ながら公式記述がない。
旧ワープ・ファクターに関しては諸説がある。ただENT:暗黒の地球帝国・後編にて、チャールズ・タッカー三世中佐が「この船のワープ・コイルの大きさなら、ワープ7は出せるはずだ」と、あたかもワープ・コイルの大きさでワープ・ファクターが決まるような言動をしている。ワープ・コイルが大型ならば当然、より大パワーのワープ・プラズマを注入できるため、旧ワープ・ファクターが単に、「船体に対するワープ・コイルのパワー指数」であるということも、考えられなくはない。